育成就労の転籍制度|本人意向の要件・分野別の転籍制限期間一覧
目次
「育成就労では転籍ができると聞いたが、育てた人材が1年で抜けてしまうのでは」——技能実習との最大の違いの一つが、この転籍です。結論を先に言うと、本人の意向による転籍が可能になるのは分野ごとに定められた転籍制限期間を超えてからで、その期間は2年が8分野・1年が9分野に分かれています。自社の分野がどちらなのか、そのとき何の試験が要るのかは、下の一覧表で確認できます。
この記事の要点
- 本人意向の転籍は「制限期間を超えてから」 — 2026年1月23日閣議決定の分野別運用方針で、育成就労17分野のうち2年が8分野・1年が9分野と定められました。期間の充足は転籍先の新しい計画の認定段階で判定されるため、申出や転籍先探しは期間が経過する前から始まり得ます。
- 期間のほかに試験の要件もある — 育成就労評価試験(初級)等の技能試験と、日本語能力の試験(多くの分野でA2.1相当以上・介護はA2.2相当以上)の合格が必要です。
- 長く守るほど義務が付く — 1年を超える転籍制限期間を選んだ受け入れ機関には、分野ごとに定める昇給等の待遇向上が課されます。1年に短縮すればこの義務は生じません。
- 転籍で「採る側」にも要件がある — 優良な育成就労実施者であること、本人意向転籍者が在籍者の3分の1以内であること、転籍元への初期費用の補填が求められます。
育成就労は2027年(令和9年)4月1日に施行される制度で、2026年8月時点ではまだ運用が始まっていません。分野別運用方針は2026年1月23日の閣議決定、運用要領は改正が続いており、転籍時の初期費用の補填額を定める告示など未制定のものもあります。実際の受け入れを判断する際は、出入国在留管理庁の最新の資料で確認してください。
育成就労では「転籍」が認められる(無制限ではない)
技能実習では原則としてできなかった実習先の変更が、育成就労では転籍として制度に組み込まれています。育成就労制度の施行日は2027年(令和9年)4月1日で、施行期日を定める政令(政令第340号)により確定しています。[1]
ただし「いつでも自由に転職できる」制度ではありません。出入国在留管理庁・厚生労働省の基本方針は、育成就労は3年間を通じて同一の受け入れ機関で行われることが望ましいとしたうえで、転籍を次の2類型に分けています。[2]
- ① やむを得ない事情による転籍 — 倒産・解雇などで就労の継続が困難になった場合、暴行やハラスメントなどの人権侵害を受けた場合、重大悪質な法令違反・契約違反があった場合などに認められる転籍です。
- ② 本人の意向による転籍 — 転籍制限期間・業務区分・技能と日本語・転籍先の基準という要件を満たしたときに、本人の希望で同じ業務区分の別の受け入れ機関へ移れる転籍です。技能実習にはなかった仕組みです。
①は本人を保護するための転籍、②は本人のキャリア選択を認める転籍という位置づけの違いがあります。企業が「育てた人材の流出」として警戒するのは主に②であり、期間や試験の要件がかかるのも②だけです。なお、ここでいう転籍は育成就労実施者(雇用主である受け入れ機関)の変更を指します。
なお、ここで比べているのは「転籍ができるか」の一点だけです。制度の目的・在留期間・費用構造・受け入れ人数枠まで含めた技能実習との違い全般は、特定技能と技能実習の違いで解説しています。
本人意向の転籍が認められる4つの要件
本人意向による転籍は、転籍先となる受け入れ機関が新しい育成就労計画の認定を受けて初めて成立し、その認定には次の4つの要件がそろっている必要があるとされています。[3]
- ① 転籍制限期間を超えていること — 直近の受け入れ機関の下で就労した期間が、分野ごとに定める転籍制限期間を超えていることが必要です。この期間は1年以上2年以下の範囲で分野別運用方針が定めます。なお、この要件は転籍先の新しい育成就労計画の認定・開始の段階で満たしていれば足りるため、本人の申出や転籍先を探す支援は、期間が経過する前から始まり得るとされています。[3]
- ② 転籍の前後で業務区分が同一であること — 転籍は同じ業務区分の範囲内に限られます。別の分野・別の業務区分へ移ることは本人意向の転籍としては認められません。
- ③ 技能・日本語の試験に合格していること — 分野別運用方針が定める技能試験(育成就労評価試験(初級)または技能検定(基礎級))と、日本語能力の試験の合格が必要です。
- ④ 転籍先が所定の基準を満たすこと — 優良な育成就労実施者であること、本人意向転籍者の受け入れ割合が上限以内であることなどが求められます(後述)。
このほか、運用要領では、一度転籍した人がさらに本人意向の転籍をするには転籍後の受け入れ機関の下で改めて転籍制限期間の経過が必要とされ、育成就労の期間を3年を超えて延長している間は本人意向の転籍が認められないとされています。転籍先で育成就労を行わせられる期間は、3年から同一業務区分での過去の育成就労期間を差し引いた残りです。[3]
転籍制限期間は1年か2年——分野ごとの期間と転籍時の要件
自社の分野で本人意向の転籍がいつから起こり得るかは、分野別運用方針の転籍制限期間で決まります。次の表は、2026年(令和8年)1月23日に閣議決定された分野別運用方針および出入国在留管理庁の横断資料をもとに、育成就労17分野の転籍制限期間・本人意向の転籍時に必要な技能試験・日本語能力水準を1つにまとめたものです。[4][5]
| 分野 | 転籍制限期間 | 転籍時に必要な技能試験 | 転籍時の日本語能力水準 |
|---|---|---|---|
| 介護 | 2年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.2相当以上 |
| 建設 | 2年 | 育成就労評価試験(初級)又は技能検定(基礎級) | A2.1相当以上 |
| 工業製品製造業 | 2年 | 育成就労評価試験(初級)又は技能検定(基礎級) | A2.1相当以上 |
| 造船・舶用工業 | 2年 | 育成就労評価試験(初級)又は技能検定(基礎級) | A2.1相当以上 |
| 飲食料品製造業 | 2年 | 育成就労評価試験(初級)又は技能検定(基礎級) | A2.1相当以上 |
| 自動車整備 | 2年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 外食業 | 2年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 資源循環 | 2年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| ビルクリーニング | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| リネンサプライ | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 宿泊 | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 鉄道 | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上(運輸係員はA2.2相当以上) |
| 物流倉庫 | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 農業 | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 漁業 | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 木材産業 | 1年 | 育成就労評価試験(初級) | A2.1相当以上 |
| 林業 | 1年 | 技能検定(基礎級) | A2.1相当以上 |
※ 2026年(令和8年)1月23日閣議決定の分野別運用方針時点。技能試験の欄は分野ごとの区分を示したもので、実際に受ける試験の名称(「外食業育成就労評価試験(初級)」など)は業務区分・主たる技能ごとに各分野の分野別運用方針の別表で指定されます。転籍時に求められる技能水準は、「育成就労の開始後1年経過時までに満たすべき技能水準」と同じ水準です(各分野の運用方針の定め方には、別表を参照する分野と試験名を直接指定する分野があります)。[5][6] 日本語能力水準は「日本語教育の参照枠」に基づく区分で、A1相当はJFT-Basic・JLPT N5等、A2.2相当はJFT-Basic・JLPT N4等の試験が該当し、「A2.1」はA1に到達しA2.2到達に向けて学習が進展しているレベルとされています(試験は分野ごとに設定)。[5]
表の読み方は、企業側の判断に翻訳すると次のようになります。
- 2年の分野(8分野)は、育成投資の回収期間が長めに確保される — 介護/建設/工業製品製造業/造船・舶用工業/飲食料品製造業/自動車整備/外食業/資源循環がこれに当たります。各分野の運用方針では、技能修得に時間がかかることに加え、分野によっては都市部と地方部の求人倍率差による人材流出への激変緩和措置という理由も挙げられています。たとえば外食業の運用方針は、令和7年1〜3月の有効求人倍率が都市部3.89倍・地方部4.61倍と地方部のほうが高く、転籍を制限しなければ人材が都市部へ過度に流出しかねないことを2年の理由に挙げています。[6][7]
- 1年の分野(9分野)は、就労開始から1年経過後に本人意向の転籍があり得る — ビルクリーニング/リネンサプライ/宿泊/鉄道/物流倉庫/農業/漁業/木材産業/林業がこれに当たります。
- 2年の分野でも、受け入れ機関の判断で1年に短縮できる — 転籍制限期間は育成就労計画の「育成就労実施者の変更を制限する期間」の欄で機関ごとに定めるもので、2年の分野でも1年と定めることができるとされています。ただし、同じ機関の中で外国人ごとに異なる転籍制限期間を定めることは不当な取扱いに当たるとされています。[3]
- 期間を超えれば自動的に転籍できるわけではない — 転籍時には技能試験と日本語試験の合格も要件です。日本語はA2.1相当以上が多くの分野の水準ですが、介護は転籍時点でA2.2相当以上が求められます。
どの分野が育成就労の対象かという枠組みそのものは育成就労の対象分野で整理しています。分野ごとの受け入れ実務(試験・協議会・特有の手続き)は外食業の採用・建設業の採用・介護の採用などの業種別ガイドをご覧ください。
1年を超える制限期間を選んだ場合の待遇向上義務は分野ごとに中身が違う
転籍制限期間を長く取ることには、そのぶんの義務が伴います。基本方針では、1年を超える転籍制限期間が定められた分野でその期間を選択した受け入れ機関は、就労開始から1年を経過した後に「転籍の制限を理由とした昇給その他分野ごとに定める基準を満たす待遇の向上等」を図らなければならないとされています。[2]
その中身は分野によって別物です。
- 建設/工業製品製造業/造船・舶用工業/自動車整備/飲食料品製造業/外食業/資源循環 — 分野ごとの協議会が毎年昇給率を設定・公表し、2年を選んだ受け入れ機関は在籍する育成就労外国人の所定内賃金を1年目から2年目にかけてその昇給率によって(建設はその昇給率以上で)昇給させる、という形です。何を基準に昇給率を決めるかは分野ごとに違い、建設は建設業の前年の平均賃金上昇率、造船・舶用工業は中小企業の賃上げ率、工業製品製造業は分野の全企業の賃上げ率、外食業・自動車整備・飲食料品製造業・資源循環は分野内の育成就労実施者の賃上げ率が基準とされています。[8][6][7] 転籍制限期間は育成就労計画の記載欄で、待遇向上の内容は雇用契約書・雇用条件書の写しで確認されるとされています。[3]
- 介護 — 昇給率方式ではなく、介護職員等処遇改善加算の取得等の要件を満たしたうえで、育成就労外国人ごとに育成就労キャリア支援プランを作成する、という形です。[9]
- 転籍制限期間を1年と設定した場合 — 出入国在留管理庁・厚生労働省の運用要領のポイントでは、この待遇向上を行うことは義務付けられていないとされています。[10]
つまり2年の分野では、「2年守る代わりに翌年の昇給水準を分野の基準に合わせる」か「1年に短縮して昇給の縛りを持たない」かという選択になります。どちらが自社に合うかは、賃金テーブルの設計余地と、その分野で1年経過後にどれだけ転籍圧力がかかるかの見立てで変わります。
転籍の手続きと関わる機関
転籍は、本人の申出から始まり、転籍先の新しい育成就労計画が認定されて成立します。運用要領では、おおよそ次の流れとされています。[3]
- 本人が書面で申出をする — 育成就労外国人は、受け入れ機関・監理支援機関・外国人育成就労機構のいずれかに、変更を希望する旨の申出書を提出します。口頭で希望を伝えただけでは法律上の申出とは認められないため、口頭で伝えられた場合は受け入れ機関や監理支援機関が申出書の提出を案内する必要があるとされています。申出書を受け取った者がこれを廃棄したり受け取りを拒否したりすることは認められません。受け入れ機関が申出を受けた場合は、遅滞なく申出書の写しを添えて監理支援機関へ通知する必要があります(監理支援機関を通じて受け入れる監理型の場合)。[3]
- 申出を受けた側が届出・連絡調整を行う — 施行後の育成就労法第8条の4第5項では、申出や通知を受けた監理支援機関は、その外国人の育成就労が継続できるよう、他の受け入れ機関や監理支援機関その他関係者との連絡調整、職業紹介その他の必要な措置を講じなければならないと定められています。転籍支援はまず監理支援機関が中心となり、外国人育成就労機構およびハローワークも連携して転籍先の情報の収集・提供などの支援を行うとされています。[2] なお、本人が機構に申出をした場合、現在の受け入れ機関への通知は速やかに行うのが原則ですが、本人が速やかな通知に同意しないときは、本人が同意した時点または転籍先の育成就労計画が認定された時点で行うとされています=受け入れ機関が転籍の動きを知るのは、決着後になることがあり得ます。[3]
- 転籍先が新しい育成就労計画の認定を受ける — 転籍先となる受け入れ機関が、機構に新しい育成就労計画の認定を申請します。従前の育成就労計画の写しなどの確認が必要で、本人から写し等の交付を求められた受け入れ機関はこれを拒否できないとされています。
ここで企業側が特に注意したいのが、民間の職業紹介事業者を介した本人意向の転籍は認められないという点です。運用要領では、監理支援機関・機構・ハローワーク・地方運輸局以外の者が行う職業紹介を受けた場合や、特定募集情報等提供事業を行う者による情報提供を受けた場合、その本人意向の転籍による受け入れは認められない(=転籍先となる機関が新しい育成就労計画の認定を受けられない)とされています。自社が過去1年以内に、主として育成就労外国人向けの募集情報等提供を事業者に依頼していた場合も同様に受け入れられません。この「特定募集情報等提供事業を行う者」には、厚生労働大臣への届出をしていない事業者も含まれます。[3] トモハタを含む民間の情報提供・紹介サービスも本人意向転籍のマッチングには利用できません(当サイトの診断・相談は、特定技能での新規採用や受け入れ体制づくりの相談を対象としています)。
このように転籍の連絡調整・職業紹介を担うのは監理支援機関です。どの監理支援機関と組むかが、人が抜けるとき・採るときの両方の実務品質に直結します。監理支援機関そのものの役割・技能実習の監理団体や登録支援機関との違いは監理支援機関とはで解説しています。なお、在留資格に関する申請書類の作成や申請取次は行政書士などの専門家の領域です。手続きの実務は、監理支援機関と専門家それぞれの守備範囲を確認したうえで進めてください。
転籍者を受け入れる側に課される要件
転籍者を受け入れる側には、優良認定・受け入れ割合の上限・転籍元への費用補填という固有の要件が課されます。運用要領では、本人意向転籍者を受け入れる育成就労実施者は次の条件を満たす必要があるとされています。[3]
- 転籍者だけを受け入れる機関ではないこと — 認定の時点で、現に受け入れている育成就労外国人が転籍者等のみである状態は認められません。
- 優良な育成就労実施者であること — 新しい育成就労計画の認定を申請する時点と育成就労を開始する時点の両方で満たす必要があります。優良の基準は運用要領に配点表として公表されており、技能・日本語試験の合格率(最大50点)や受け入れ体制・待遇(最大40点)などを点数化して、受け入れ実績に応じた満点(56〜100点)の7割以上(一部を除く項目ごとに6割以上)を獲得する必要があります。優良かどうかの確認は、認定申請時に優良要件適合書(参考様式第1-36号)等を提出して受けます。[3]
- 本人意向転籍者の割合が上限以内であること — 転籍成立後に在籍することとなる育成就労外国人の総数に対する割合で判定します。
割合の上限は、運用要領で次のように整理されています(数値は2026年8月時点の運用要領による)。
| 転籍成立後に在籍する育成就労外国人の総数 | 受け入れられる本人意向転籍者の上限 | うち地方圏(指定区域内)から大都市圏(指定区域外)への転籍者の上限 |
|---|---|---|
| 1〜2人 | 0人(受け入れ不可) | 0人(受け入れ不可) |
| 3〜5人 | 1人 | 1人 |
| 6〜8人 | 2人 | 1人 |
| 9〜11人 | 3人 | 1人 |
| 12〜13人 | 4人 | 2人 |
| A人 | A人×3分の1以下 | A人×6分の1以下 |
※ やむを得ない事情により転籍した人、育成就労の期間を3年を超えて延長した人、妊娠・出産等により育成就労を中断していた人は、この計算に含めません。
表の「地方圏(指定区域内)」かどうかは、受け入れ機関の住所(法人は登記簿上の本店所在地・個人は住民票上の住所)で判定されます。指定区域は主務大臣の告示で定められており、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県の8都府県以外の全地域に、この8都府県内の一部の市町村(東京都の檜原村・奥多摩町や大阪府の豊能町・岬町など)を加えた地域です。大都市圏に本店のある機関が地方圏の機関から転籍者を受け入れる場合に6分の1の上限がかかる仕組みで、転籍後の在籍が5人以下の場合は地方圏からの転籍者を1人まで受け入れられます(3分の1の上限は別途かかります)。[3]
もう一つ、企業のコストに直結するのが初期費用の補填です。運用要領では、転籍先となる受け入れ機関は、転籍元が受け入れに当たって支出した初期費用の一部を転籍元に補填することとしている必要があり、その額は主務大臣が告示で定める額に、転籍元での育成就労の期間に応じた按分率を掛けて算出するとされています。
| 転籍元での育成就労の期間 | 補填額の按分率(1回目の本人意向の転籍) |
|---|---|
| 1年以上1年6か月未満 | 6分の5 |
| 1年6か月以上2年未満 | 3分の2 |
| 2年以上2年6か月未満 | 2分の1 |
| 2年6か月以上 | 4分の1 |
※ 按分率を掛ける基礎となる額(告示で定める額)は2026年8月時点で未制定のため、この表だけでは補填額は算定できません(後述)。1,000円未満の端数は切り捨てられます。転籍元に初期費用がかかっていない場合(転籍元自身がやむを得ない事情による転籍で受け入れていた場合など)は補填は不要です。
2回目の本人意向の転籍では、1回目の転籍の際に転籍元へ補填された金額を基準に、1回目の転籍元(最初の機関)の下での期間と、これまでの機関での期間の合計との組み合わせに応じた按分率(5分の3・10分の3・8分の3)を掛けた額となります。また、この初期費用の補填が求められるのは本人意向の転籍だけで、やむを得ない事情による転籍には適用されません。[3]
補填額の支払いは、新しい育成就労計画の認定申請の際に誓約し、認定後6か月以内に支払いを証明する書類を機構へ提出します。誓約に反して支払わなかった場合は、虚偽の申請として育成就労計画の認定の取消しの対象となり得ます。逆に転籍元として補填を受ける側は、受け入れに要した費用の領収書等を保管しておく必要があるとされています。[3]
ただし、この計算の土台となる告示(基礎となる額)は2026年8月時点で制定されていません。出入国在留管理庁のQ&Aでも「今後制定する予定」とされている段階のため、補填額そのものを見積もれるようになるのは告示の公布後です。[11] 早く抜けられるほど転籍先の補填負担が重い(按分率が高い)設計になっている点だけは、いま押さえておけます。
やむを得ない事情による転籍——本人意向とは基準が違う
やむを得ない事情による転籍は、転籍制限期間・技能と日本語の試験・転籍先の基準という3つの要件なしで認められる転籍です。運用要領がこの3要件を課しているのは本人意向の転籍だけで、やむを得ない事情がある場合には適用されません。[3]
| 要件 | やむを得ない事情による転籍 | 本人の意向による転籍 |
|---|---|---|
| 転籍制限期間の経過 | 不要 | 必要 |
| 技能・日本語の試験合格 | 不要 | 必要 |
| 転籍先の基準(優良・割合上限など) | 不要 | 必要 |
| 業務区分が同一であること | 必要 | 必要 |
どのような場面がこれに当たるかは、運用要領で具体的に示されています。
- 人権侵害行為を受けた場合 — 暴行、暴言やパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠を理由に解雇をほのめかすなどのマタニティハラスメントが挙げられています。
- 雇用関係を打ち切られた場合 — 倒産・廃業・事業縮小などを理由とした整理解雇や雇止めが典型で、解雇に至らなくても事業規模の縮小等で育成就労の継続が困難になった場合も含まれます。
- 雇用契約を合意解除した場合 — 信頼関係の修復が困難となり、互いの合意の上で契約を解除する場合などです。
- 重大悪質な法令違反行為があった場合 — 認定を受けた計画と異なる業務に従事させる、賃金不払い、二重契約、在留カードや私物の不当な管理、外出の不当な制限、恋愛や妊娠の禁止、違約金の定め、貯蓄の強制、違法な時間外労働などが例示されています。
- 重大悪質な契約違反行為があった場合 — 雇用条件書に記載された条件と実態に、社会通念上育成就労を継続し難い相違があり、是正を申し入れても是正されない場合です。この「条件と実態の相違」には、受け入れ機関等が用意した宿泊施設が説明された条件と異なる場合や、予期せぬ勤務地・宿泊施設の変更で本人の負担額が増えた場合も含まれ得ます。是正の申入れは本人からに限らず、相談を受けた機構が要請する形でもよく、同じ違反と是正を繰り返す場合は申入れなしでも該当し得るとされています。
- 雇用条件の書面交付や母国語での説明がなかった場合/その他継続が相当でない事情 — 就労開始後に原材料へのアレルギーや疾病を発症して継続が困難になった場合などが挙げられています。
やむを得ない事情による転籍が生じた場合、受け入れ機関または監理支援機関は育成就労実施困難時届出書を提出し、円滑に転籍できるよう支援する必要があるとされています。なお運用要領では、やむを得ない事情によって転籍が生じたことが直ちに非自発的離職者の発生に当たるわけではないとも整理されています。
企業が備えること(定着の工夫)
転籍が制度に組み込まれた以上、受け入れ企業に必要なのは「転籍が起こりうる前提での定着の工夫」です。転籍を妨げるための不当な制約は制度上認められていません。基本方針では、転籍に当たって合格が必要な試験を受けることを妨害するなどの転籍への不当な制限や、転籍希望の申出をしたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いが禁じられています。[2] 運用要領でも、試験を受けさせない・受験を妨害するといった行為は育成就労計画の認定の取消事由となり得るうえ、その時点でやむを得ない事情による転籍が認められ得るとされています。むしろ、試験機関が事業所へ出向いて試験を行う場合には、受け入れ機関に試験場所の提供等の協力が求められ、試験場所を提供しないことは「試験を受けさせない行為」と認められ得ます(生産ラインが止まるなど提供が著しく困難な場合は、他の適切な試験場所を手配して受けさせる措置も認められます)。一方で、受け入れ機関に義務付けられているのは育成就労計画に沿った試験の受験機会までで、転籍の要件を満たすために、1年目の技能試験に一度不合格となった人に2回目を受験させる義務や、転籍時に求められる水準(A1相当を超える水準)の日本語試験を受験させる義務までは課されていません。[3]
契約設計での引き止めもできません。育成就労を途中で辞めた場合に違約金を支払わせる契約や損害賠償額をあらかじめ定める契約は、運用要領で重大悪質な法令違反行為の例として挙げられており、その時点でやむを得ない事情による転籍が認められ得る行為です。[3] 定着は、処遇と職場環境で図るのが基本になります。
- 公正な処遇と昇給の設計 — 同等の業務に従事する日本人と同等額以上の報酬を担保し、就労期間に応じた昇給を計画に織り込む。1年を超える転籍制限期間を選ぶ場合は、分野ごとに定める昇給等の待遇向上がそもそも義務になります。
- 職場環境の整備 — 相談しやすい体制、生活面の支援、ハラスメントの防止など、働き続けたいと思える環境をつくる。
- キャリアの見通しの共有 — 長く働くほど本人にメリットがある道筋を早めに示す。育成就労の3年の先には特定技能1号への移行があり、その要件と流れは育成就労から特定技能への移行で解説しています。
定着支援の考え方は、特定技能の人材にも共通します。受け入れ後の定着の実務は特定技能外国人の定着支援もあわせてご覧ください。
育成就労制度の全体像
転籍は育成就労制度の一部です。制度の目的・技能実習や特定技能との違い・受け入れの流れといった全体像は育成就労とは(技能実習に代わる新制度)で解説しています。受け入れを支える機関については監理支援機関とはを、特定技能制度そのものの全体像は特定技能採用の完全ガイドをご覧ください。
まとめ
育成就労では、技能実習になかった転籍が認められます。本人の意向による転籍が可能になるのは分野ごとの転籍制限期間を超えてからで、2026年1月23日閣議決定の分野別運用方針では2年が8分野・1年が9分野と定められました。期間を超えても、技能試験と日本語試験(多くの分野でA2.1相当以上・介護はA2.2相当以上)の合格が要件です。
企業側の設計としては、2年の分野で「2年守って分野基準の昇給を負う」か「1年に短縮して昇給の縛りを持たない」かの選択があり、転籍で採る側には優良認定・在籍者の3分の1という割合上限(大都市圏の機関が地方圏から受け入れる場合はさらに6分の1)・転籍元への費用補填が課されます。いずれにせよ転籍を妨げるための不当な制約は認められていないため、定着は処遇と職場環境で図るのが基本です。制度の全体像は育成就労とはで押さえておくとよいでしょう。
よくあるご質問
- 育成就労では転籍(転職)はできますか?
- はい。育成就労では、技能実習にはなかった転籍が認められます。制度上は「やむを得ない事情による転籍」(倒産・解雇、人権侵害、重大悪質な法令違反や契約違反など)と「本人の意向による転籍」(転籍制限期間・技能・日本語などの要件を満たす場合)の2類型が定められています。前者には期間や試験の要件がかからず、後者には要件がかかります。
- 本人意向の転籍が認められる要件は何ですか?
- 主な要件は4つです。①直近の受け入れ機関の下で転籍制限期間を超えて就労していること(2026年1月23日閣議決定の分野別運用方針で、17分野のうち2年が8分野・1年が9分野と定められました)、②転籍前後で業務区分が同一であること、③育成就労評価試験(初級)等の技能試験と日本語能力の試験に合格していること(日本語は多くの分野でA2.1相当以上、介護はA2.2相当以上)、④転籍先が優良な育成就労実施者であるなど所定の基準を満たすことです。具体的な期間・水準は分野ごとに異なるため、該当分野の分野別運用方針で確認してください。
- 育成就労の転籍はいつから始まりますか?
- 育成就労制度そのものの施行日が2027年(令和9年)4月1日で、施行期日を定める政令(政令第340号)で確定しています。転籍の仕組みもこの施行後に動き始めます。ただし本人意向の転籍は、同一の受け入れ機関で分野ごとの転籍制限期間(1年または2年)を超えて就労していることが前提のため、実際に本人意向の転籍が起こり得るのは受け入れ開始からその期間が経過した後です。
- 育成就労の転籍に企業はどう備えればよいですか?
- 転籍が起こりうる前提で、公正な処遇・職場環境の整備・キャリアの見通しの共有といった定着の工夫を採用計画に組み込むことが基本です。出入国在留管理庁・厚生労働省の基本方針では、試験の受験妨害などの転籍への不当な制限や、転籍希望の申出を理由とする解雇その他の不利益な取扱いが禁じられています。なお転籍者を受け入れる側にも、本人意向転籍者が在籍者全体の3分の1以内であることや、転籍元への初期費用の補填といった要件が課されます。
出典・参考(一次情報)
- 出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(政令第340号・施行期日は令和9年4月1日)(内閣(出入国在留管理庁掲載))
- 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針及び育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する基本方針(令和7年3月11日閣議決定・第四2(1)エ「育成就労実施者の変更(転籍)」p.12-13)(出入国在留管理庁)
- 育成就労制度運用要領 第4章「育成就労計画の認定等」(令和8年8月版・転籍時の認定基準・やむを得ない事情・転籍先の基準〔優良の配点表を含む〕・初期費用の補填)(出入国在留管理庁・厚生労働省)
- 分野別運用方針の主要な記載事項(令和8年1月23日閣議決定・分野ごとの転籍制限期間および本人意向による転籍時の技能・日本語能力水準 p.2)(出入国在留管理庁)
- 育成就労制度の概要(令和8年7月改訂・分野別の転籍制限期間と日本語能力水準 p.3-4)(出入国在留管理庁)
- 外食業分野の分野別運用方針(別紙16・転籍制限期間2年の理由〔有効求人倍率 都市部3.89倍・地方部4.61倍〕と賃上げ率基準の昇給率 p.9)(出入国在留管理庁)
- 特定技能・育成就労制度に係る分野別運用方針(分野ごとの別紙・令和8年1月23日閣議決定)(出入国在留管理庁)
- 建設分野の分野別運用方針(別紙5・1年を超える転籍制限期間を設定した実施者は協議会が設定・公表する昇給率以上の昇給 p.9)(出入国在留管理庁)
- 介護分野の分野別運用方針(別紙1・転籍制限期間2年/1年を超える期間を設定した実施者の待遇向上策は介護職員等処遇改善加算の取得等と育成就労キャリア支援プランの作成 p.8)(出入国在留管理庁)
- 育成就労制度運用要領のポイント(転籍制限期間を1年と設定した場合は待遇向上策の義務が生じない旨 p.4/転籍の申出と連絡調整 p.7)(出入国在留管理庁・厚生労働省)
- 育成就労制度Q&A(初期費用の補填額を定める告示は今後制定予定)(出入国在留管理庁)